女性技術者が活躍する社会はすぐそこに?

~女性の働き方をサポートする取り組みとは~

目次

    世界各国と比較して女性活躍の遅れが見られる日本では、理工系分野に進学する女子が少なく、メーカーで働く技術職の女性もマイノリティです。

    道を示してくれる女性の先輩たちの数も少なく、女性従業員の割合が極端に低い環境で働くことに不安に感じる方も多いかもしれません。

    女性の社会進出に関して他国に遅れをとっているものの、国の取り組みによって産休・育休などの制度は普及しつつあり、従業員の子育て支援に積極的な企業も増加しています。

    多くの女性技術者が活躍する社会は近い将来、日本でも実現できるのでしょうか。


    世界と比較して女性活躍が遅れる日本

    2022年7月に​​世界経済フォーラムが発表した世界各国のジェンダーギャップ指数において、日本は146カ国中で116位でした。これは先進国の中ではかなり低いレベルで、韓国や中国よりも低く、そしてASEAN諸国の中でも最下位です。

    前年度と比較してもほぼ横ばいで、ジェンダーギャップの是正は進んでいないのが現状です。*1

    さらに、日本では理工系学部に進学する女子生徒が少なく、ジェンダーギャップが顕著になっています。

    OECD(経済協力開発機構)が2021年に実施した調査によれば、理工系分野に進学する女子生徒はOECD加盟国26カ国中最下位です。

    自然科学、数学、統計学の分野ではOECD加盟国平均が52%であるのに対して日本は27%、工学、製造、建築の分野では、OECD加盟国平均が26%であるのに対して日本は16%と、とても低い結果となっています。*2

    日本で、女性の理系選択者が少ない理由にはさまざまな原因があります。

    日本学術会議が実施した調査によると、家族からのネガティブな声かけや誘導、学生時代の環境や周囲からのアドバイスなどが女子生徒の理系選択を阻む要因になっていると報告されています*3(図1)

    理系の進路選択を阻む悪循環
    図1:理系の進路選択を阻む悪循環
    出所)日本学術会議 第三部 理工学ジェンダー・ダイバーシティ分科会「理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題」 p.2
    https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf24/siryo290-4-4.pdf


    理系選択を阻むような周囲の声かけは、イメージや思い込み、古い価値観によるものがほとんどですが、結果として女性の理系選択者が減り、「女性は理系が少ない」という事実が出来上がることでさらなる悪循環を生んでいます。


    理系女性がロールモデルを見つけるには?

    内閣府の男女共同参画白書では、女性研究者が少ない理由として家庭と両立が困難であることや育児期間後の職場復帰が難しいこと、職場環境、業績評価に対する育児・介護への配慮不足などに次いで、ロールモデルが少ないことが挙げられています。(図2)*4

    女性研究者が少ない理由(男女別)
    図2:女性研究者が少ない理由(男女別)
    出所)内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書平成27年版 女性研究者が少ない理由(男女別)」
    https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h27/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-06-11.html


    ロールモデルとは、具体的な行動の規範となり、働き方や生き方を見本とする人物のことです。

    就職活動をするとき、「同じ職種に女性の先輩はいるのか」「育児をしながら働く女性社員はいるのか」など、ロールモデルの存在を意識する女子学生も多いでしょう。

    最適なロールモデルが見つからないと、その企業への就職に不安を感じてしまうかもしれません。

    しかし、現実的な問題として、女性技術者や研究者の割合は上の世代にいくほど少なくなります。

    そもそも絶対数が少ないので、自身が描くキャリアビジョンにぴったりとあてはまる女性の先輩が見つかりにくいのは、ある意味当たり前とも言えます。

    ロールモデルが見つかりにくいことを現実として受け止め、社内だけでなく社外や違う分野、さらには理系・文系にこだわりすぎずに、広く目を向けてみることも大切です。

    また、ロールモデルを一人に絞らず、複数の身近な先輩をお手本にするという方法もあります。

    管理職として活躍している人、育児と仕事を両立をしている人、自分と似た経歴を持っている人など、複数の先輩たちから働き方や生き方のヒントをもらうことで、自身のキャリアビジョンを描くことができるでしょう。

    また、これは筆者の経験談ですが、企業の第一線で活躍する女性の先輩方の講演会に出席したり、メディアで取り上げられる女性技術者のインタビューを読んだりすることで、その輝かしい経歴や実績にかえって自信を失ってしまうこともありました。

    ロールモデルを探すことは意味のあることですが、遠い存在の人ばかり見ていると、「理系の女性はエリートばかり」「特別な女性だけが活躍できる」などの間違った刷り込みがされてしまい、自身の選択に不安を抱くことにつながってしまうかもしれません。


    女性活躍をサポートする仕組みの充実

    女性技術者が社会で継続して活躍できるようなさまざまな仕組みや制度は、近年急速に整えられつつあります。

    厚生労働省の調査によれば、2021(令和3)年度の女性の育児休業の取得率は89.5%、直近10年は8割台で推移しており、大半の女性社員が育児休業を取得しています。*5

    育児休業の普及に伴い、第一子出産後も就業を継続する女性は約5割へと上昇しています。*6(図3)

    子どもの出産前後の妻の就業経歴の構成
    図3:子どもの出産前後の妻の就業経歴の構成
    出所)内閣府 男女共同参画局「ひとりひとりが幸せな社会のために」
    https://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/pamphlet/pdf/panphlet_part04.pdf


    女性の育児休業取得率が8割を超えていますが、男性の育児休業に関しては普及が遅れており、現在取得率は全体の1/5にも満たない18.9%です。*5

    そのため政府は男性の育児休業取得率増加を目指して、制度の整備をすすめています。

    育児・介護休業法の改正に伴い、2022(令和4)年に産後パパ育休が新設され、育児休業とは別に、子どもの出産後8週間以内に4週間まで、育児のための休暇を取得できるようになりました。

    育児休業は夫婦ともに分割して2回取得可能で、1歳以降の育児休業の途中交代も可能です。*7(図4)

    改正後の働き方・休み方のイメージ(例)
    図4:改正後の働き方・休み方のイメージ(例)
    出所)厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」 p.3
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf


    また、東京都では育児休業の愛称を「育業」とし、「仕事を休む期間」ではなく、「社会の宝である子供を育む期間」としてマインドチェンジするように働きかけています。*8

    育児休業の取得推進など、従業員の子育てをサポートする企業は、厚生労働省からくるみん認定を取得することができます。

    くるみん認定を受けるには、次世代育成支援対策推進法に基づいて行動計画を策定し、目標を達成して一定の基準を満たす必要があります。

    行動計画では、女性従業員の増加や女性が継続的に就業できる仕組み作り、育児休業取得率向上などに関して、具体的な制度導入や数値目標を設定します。

    くるみん認定を受ける企業は年200〜300社のペースで増加しており、2021年には3,500社を超えています。*9


    大学入試で理工系を志望する女子生徒が大幅増加!

    科学技術分野における女性活躍を推進するべく、国内の公的機関や大学、民間機関などが女子生徒の理系選択を支援する取り組みを積極的に実施しています。

    国立研究開発法人科学技術振興機構が実施している「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」では、理系分野で活躍する先輩との交流や出前授業、実験教室などを通じて、理工系分野への興味を促し、研究者・技術者を自身のキャリアとして考えるきっかけづくりのサポートをしています。*10(図5)

    女子中高生の理系選択支援プログラムの概要
    図5:女子中高生の理系選択支援プログラムの概要
    出所)国立研究開発法人科学技術振興機構「女子中高生の理系選択支援プログラム」
    https://www.jst.go.jp/cpse/jyoshi/


    さまざまな取り組みがおこなわれているなか、国内の女性研究者の割合は、ゆっくりと着実に増加傾向にあります。

    図6は、研究者総数のうちの女性研究者の占める割合の2003年から2019年までの推移です。*11

    女性研究者の割合の推移
    図6:女性研究者の割合の推移
    出所)文部科学省「女性研究者ってどのくらいいるの?」
    https://www.mext.go.jp/kids/find/kagaku/mext_0004.html

    さらに大学受験の時点で、理工系学部を志望する女子生徒も増加しています。

    2023年大学入試における予備校の模擬試験の動向では、電気・電子、応用科学などのこれまで特に女子が少なかった工学部の学科の志望者が大幅に増加しました。

    反対に、これまで一般的に「女子らしい」イメージを持たれていた、人文学系や家政系の学科は志望者が減少しています

    2023年に大学受験をする高校3年生は、新型コロナウィルスの感染拡大以降に高校に入学し、文系か理系かどちらに進むのかを選択した世代です。

    コロナ渦における社会の変化によって、就職や資格取得に有利な理系学部を選択する女子が増えたのではと専門家は指摘しています。*12 *13


    まとめ

    古くからの固定概念や性別による決めつけなどによって、日本は世界各国と比較しても理工系の分野で女性の割合が低くなっています。

    しかし、2023年の大学入試では理工系分野を志望する女子生徒が大幅に増えるなど、世の中の流れは少しずつですが、変化の兆しもみられます。

    母親・父親の両方が育休を取得しやすい制度も整えられ、出産後も就業が続けられるようにサポートする企業も増加しています。

    女性技術者の数が増加することで、これから進路を選択する女子学生にとっての身近なロールモデルも増え、未来の女性技術者を増やしていく好循環を生み出すことができるかもしれません。

    女性技術者がいきいきと自分らしく働くことで、次の世代に渡すバトンを増やすことができるでしょう。


    参考文献

    *1

    内閣府 男女共同参画局「世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表」

    https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html

    *2

    内閣府 男女共同参画局「夏のリコチャレリコチャレ2022総括」p.3

    https://www.gender.go.jp/c-challenge/pdf/summer_rico_2022.pdf

    *3
    日本学術会議 第三部 理工学ジェンダー・ダイバーシティ分科会「理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題」p.2

    https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf24/siryo290-4-4.pdf

    *4

    内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書平成27年度版 女性研究者が少ない理由(男女別)」

    https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h27/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-06-11.html

    *5

    厚生労働省「「令和3年度雇用均等基本調査」結果を公表します」 p.20

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/07.pdf

    *6
    内閣府 男女共同参画局「ひとりひとりが幸せな社会のために」

    https://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/pamphlet/pdf/panphlet_part04.pdf

    *7

    厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」 p.3

    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf

     

    *8

    東京都政策企画室「育業」

    https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/kodomo-seisaku/ikugyo/

    *9

    出所)非営利一般社団法人 安全衛生優良企業マーク推進機構「「くるみんマーク認定」 ~子育てサポート企業の証~」

    https://shem.or.jp/kurumin-system#2

     

    *10

    出所)国立研究開発法人科学技術振興機構「女子中高生の理系選択支援プログラム」

    https://www.jst.go.jp/cpse/jyoshi/

    *11

    出所)文部科学省「女性研究者ってどのくらいいるの?」

    https://www.mext.go.jp/kids/find/kagaku/mext_0004.html

    *12

    出所)朝日新聞「女子の理工系志望が急増 コロナに伴う社会の変化がきっかけか」

    https://www.asahi.com/edua/article/14797368

    *13

    出所)読売新聞「女子受験生、理系志向くっきり...コロナ禍で「手に職」求める」

    https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/daigakunyushi/20230107-OYT1T50045/

    画像

    フリーライター

    石上 文 Aya Ishigami

    広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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