γ線バースト「GRB 250702B」は繰り返された恒星の "断末魔" かもしれないという考えが発表される

恒星は一度に飲み込まれなかった? 繰り返された宇宙の“断末魔”を最新研究が読み解く。

目次

    「γ線バースト」は、宇宙で起きる最大級のエネルギー現象ですが、その正確な実態には謎が残っています。典型的なγ線バーストは数秒前後持続する一過性の現象であり、特殊な超新星爆発やコンパクト星同士の衝突によって発生すると考えられています。

    しかし、2025年に観測された「GRB 250702B」は、持続時間が7時間と極めて長い上に、準周期的な性質を持つという特異なものでした。このような前例はなく、どのように発生したのかが注目されていました。

    イスラエル・オープン大学のJonathan Granot氏などの研究チームは、GRB 250702Bの観測データを分析した結果、これは太陽の数万倍程度の質量を持つ「中間質量ブラックホール」が、恒星を飲み込むことで発生したという考えを発表しました。もしもこれが本当ならば、天文学におけるここ10年ほどの重大ニュースの1つとなるほど大きな発見となります。

    「γ線バースト」は、謎多き高エネルギー天文現象

    数ある天文現象の中でも、「γ線バースト」は劇的なものの1つに数えられます。これは文字通り、高エネルギーな電磁波であるγ線を放出する現象であり、宇宙で最もエネルギッシュで明るい現象の1つに数えられます。

    γ線バーストがどのようにして発生するのか、その正確な原理はまだ分かっていません。しかし、γ線バーストは非常に高エネルギーであり、数ミリ秒から数秒、長くても数分しか持続せず、周期性を示さない1回限りの現象であることがわかっています。このことから、γ線バーストの大半は「特殊なタイプの超新星爆発」か「コンパクト星 (中性子星またはブラックホール) の衝突」で発生すると考えられています。

    宇宙空間に広がるピンク色の星雲と中心から放たれる光
    図1: 塵の多い銀河の中で発生したGRB 250702Bの想像図。 (Image Credit: NOIRLab, NSF, AURA & M. Garlick)

    しかし、これまでに1万5000個ものγ線バーストがカタログ化された結果、この典型的な性質に当てはまらないγ線バーストも見つかるようになりました。まず、γ線の放出時間が数時間にも達するものが存在することが分かりました。放出時間が数分というγ線バーストさえかなり珍しいという状況ですので、数時間も続くγ線バーストというのは一握りしかありません。このような数時間続くγ線バーストを「超長時間γ線バースト (ultralong GRB)」と呼びます。

    この一握りの超長時間γ線バーストの中でも、2025年7月2日に観測された「GRB 250702B」は更に例外的です。GRB 250702Bは約7時間の放出時間を持つ、最長のγ線バーストの1つですが、特異なことに準周期的にγ線を放出することが観測されているのです。GRB 250702Bでは3回のγ線放出イベントが観測されており、イベント間の時間間隔が約2825秒 (47分5秒) の倍数であることから、準周期的なものであるとみなされているのです。γ線バーストが繰り返し発生すること自体が極めてまれであることから、GRB 250702Bは天文学者の注目を集めています。

    少なくとも、GRB 250702Bは従来のγ線バーストと同じ現象であるとは考えられていません。超新星爆発やコンパクト星の衝突は一瞬で終わる一過性の現象であり、このような周期性を示さないからです。では他に、γ線を大量放出する現象は何でしょうか?この点が大きな謎となっていました。

    GRB 250702Bの主役「中間質量ブラックホール」とは?

    イスラエル・オープン大学のJonathan Granot氏などの研究チームは、GRB 250702Bがどのようにして発生したのか、その理由を解き明かす研究を行いました。Granot氏らが注目したのは「中間質量ブラックホール」と呼ばれるものです。今回の研究の説明に入る前に、まずはこの中間質量ブラックホールについて説明しましょう。

    宇宙にあるブラックホールは、太陽の数倍から数百億倍まで、様々な質量を持っています。ブラックホールは恒星の重力崩壊から形成されると考えられているため、誕生時のブラックホールはどれも太陽の数倍の質量からスタートしたと考えられています。このため、これより重いブラックホールは、小さなブラックホール同士が合体を繰り返すことで誕生したと考えられています。

    ところが、太陽の100倍から10万倍の質量を持つ「中間質量ブラックホール」は、それ以外の質量を持つブラックホールと比べてほとんど見つかっていません。本来ならば成長の途中段階として存在するべきであるはずなのに、見つかっていないミッシングリンクとなっています。これはブラックホール関連の大きな謎となっています。

    中間質量ブラックホールがほとんど見つかっていない理由についてはいくつかの説がありますが、「単に見つかっていないだけだ」という説は、単純ながらも正しいのではないかと考えられています。ブラックホール自身は何も放射しないため、一般的には周りの物質を吸い込む過程で放出される電波やX線を通じて発見されます。もしも中間質量ブラックホールが周りに物質がない環境に置かれている場合、何も放射がないため、発見が難しくなります。仮にそうである場合、中間質量ブラックホールは周りに物質がない状況で存在しやすいことになります。

    中間質量ブラックホールがどのような環境に置かれているのかについての理解は、ブラックホールの成長過程を正確に理解する上で重要な情報となります。

    GRB 250702Bは繰り返される恒星の "断末魔" かもしれない

    Granot氏らは、GRB 250702Bが中間質量ブラックホールによって発生したのではないかと考え、検討を行いました。ブラックホールが恒星のような物質の塊を飲み込む場合、一時的に物質の供給が発生するため、大量のエネルギーが発生し、γ線バーストとして観測できるからです。

    潮汐破壊現象に関与するブラックホールの種類とγ線強度変化の時間スケールを比較した表

    一般的に、ブラックホールが恒星を飲み込む過程は「潮汐破壊現象 (TDE)」と呼ばれており、しばしば "断末魔" とたとえられます。通常、この潮汐破壊現象という単語が指すのは、銀河の中心部にあり、太陽の数百万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールで発生します。しかし、超大質量ブラックホールで発生するγ線放射の強度変化は、GRB 250702Bよりも長時間の変化を伴います。また、GRB 250702Bは銀河の中心から外れた場所で発生したこともわかっています。このことから、GRB 250702Bが超大質量ブラックホールでの潮汐破壊現象で発生した可能性は低いと考えられます。

    一方で中間質量ブラックホールは、銀河の外れに位置していてもおかしくありません。また、一段階低い潮汐破壊現象である「ミリ潮汐破壊現象 (mTDE)」であるならば、GRB 250702Bで見られるγ線強度の変化を説明することができます。

    GRB 250702Bの実際の写真
    図2: GRB 250702Bの実際の写真 (疑似カラー画像) 。ヨーロッパ南天文台の超大型望遠鏡 (VLT) で撮影。 (Image Credit: ESO & A. Levan, A. Martin-Carrillo et al.)

    Granot氏らは、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡などで得られた観測データを分析し、どのシナリオが妥当であるのかを検証しました。その結果、このγ線バーストは、太陽の1万倍から5万倍の質量を持つ中間質量ブラックホールが、太陽と同じくらいの質量を持つ恒星を飲み込む際に発生した可能性が高いことを割り出しました。この質量を大きく外れるブラックホールである可能性や、恒星以外の天体を飲み込んだ可能性は、かなり低いことも分かりました。

    この説明ですと、GRB 250702Bがなぜ3回ものγ線バーストを放出したのかが簡単に説明できます。中間質量ブラックホールに飲み込まれる恒星は、1回でその全てが飲み込まれたのではなく、周りを公転するうちに少しずつ表面が剥ぎ取られたと考えられます。準周期的な性質は、恒星がブラックホールを公転する周期によって生じたと考えられ、高強度のγ線は、大量に剥ぎ取られるタイミングで起きたものと説明できます。

    今回の仮説が正しいかどうかは、今後検証が必要です。GRB 250702Bが中間質量ブラックホールによるミリ潮汐破壊現象をリアルタイムで観測したとなれば、天文学におけるここ10年間の最大の発見の1つとなりうるからです。非常に大きな発見である可能性があるからこそ、今後は追加観測や類似事例の発見を通じて、この仮説が詳しく検証されることになるでしょう。

    【参考文献】
    ●Jonathan Granot, et al. "A milli-tidal disruption event model for GRB 250702B: main-sequence star disrupted by an IMBH". Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 2026; 547 (1) stag328. DOI: 10.1093/mnras/stag328
    ●Mark Thompson. (Mar 15, 2026) "The Seven Hour Explosion Nobody Could Explain". Universe Today.
    ●Tao An. "A Precessing, Magnetically Dominated, Structured Jet Powering the Hour-scale Quasiperiodic GRB 250702B". The Astrophysical Journal Letters; 2025; 995 (1) L2. DOI: 10.3847/2041-8213/ae2028

    ●
    Andrew J. Levan, et al. "The Day-long, Repeating GRB 250702B: A Unique Extragalactic Transient". The Astrophysical Journal Letters, 2025; 990 (1) L28. DOI: 10.3847/2041-8213/adf8e1

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    サイエンスライター

    彩恵りり Rele Scie

    「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。

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