意図的か偶然か「ギザの大ピラミッド」の耐震性を解明

世界最古級の超高層建築はなぜ地震に強い? 現代技術で解き明かすピラミッドの謎

目次

    4500年以上前に建築された「ギザの大ピラミッド (クフ王のピラミッド)」は、歴史的に何度も大きな地震を経験していると考えられていますが、大きな損傷は受けていません。ピラミッドの耐震性については、その理由の一部しか理解できていません。

    エジプト国立天文地球物理学研究所のMohamed ELGabry氏などの研究チームは、自然界に存在する微弱な振動「常時微動」を元データとした計算方法「中村法 (Nakamura method)」で、ピラミッドと周辺地盤の固有振動数を算出したところ、両者の数値に大きなズレがあることが分かりました。このズレは、地盤からピラミッドに地震の揺れが伝わりにくくなっていることを示唆しています。またピラミッドの内部構造が、地震の揺れの増幅を抑えていることも明らかになりました。

    今回判明したピラミッドの耐震性が意図的な設計によるものかは不明ですが、ピラミッドが4500年以上も健在である理由の1つであることは間違いないでしょう。

    4500年以上も地震に耐えてきたピラミッド

    エジプト・ギザにあるクフ王の大ピラミッドの外観
    図1: ギザの大ピラミッドは、表面の化粧石こそ失われているものの、4500年以上も大きな損傷を受けずに存在しています。 (Credit: Jocelyn Erskine-Kellie)

    エジプトのピラミッドは、世界の有名な建造物の筆頭に位置すると言えるほど有名な建造物です。ピラミッドはいくつかありますが、中でも紀元前2500年代に建設された、「ギザの大ピラミッド」は、特に知られているものの1つです。建設当初の高さは147mあったとされています。この規模は、紀元後1311年に完成したリンカン大聖堂の160m尖塔が追い抜くまでの約3800年間、世界一高い建造物であったと言われているほどです。

    ピラミッドは、230万個もの石灰岩ブロックを積み上げた建造物ですが、表面の化粧石が取れている以外に、大きな損傷は見られません。化粧石に関しても自然な脱落ではなく、人為的な採石によって剥がされたものがあると考えられています。

    しかし、考えてみると、これは不思議なことです。というのは、ピラミッドの周辺では何度も大きな地震が発生しているからです。記録が残されているものだけでも、1847年に発生したマグニチュード6.8の地震や、1992年のマグニチュード5.8の地震など、何度も大きな地震を受けています。後者の1992年の地震では、表面のいくつかの石が落下したことが記録されていますが、それでも大きな損傷は受けません。

    4500年以上も前の巨大な石積みの建築物が、壊れることなく現存している理由は長年の謎です。理由の一部として、対称的な形をした四角錐であることから、重心が低く、特定のポイントに力が集中しないことが挙げられています。ただし、これが理由の全てであるとも考えられていません。

    建造物が地震に耐えられるかどうかを決めるのに重要なパラメーターの1つは、建造物の固有振動数と、周辺地盤の固有振動数です。地震波の振動数が、周辺地盤の固有振動数および建造物の固有振動数と一致すると、建造物に地震の揺れがダイレクトに伝わるため、共振が発生して建造物に大きなストレスを与えます。裏を返せば、これらに不一致があれば、大きな地震にも比較的耐えることができます。

    中村法でピラミッドと周辺地盤の固有振動数を算出

    常時微動の測定に使用された加速度計と、ギザの大ピラミッド内部での測定機器設置の様子
    図2: 今回、常時微動の計測に使われた加速度計と、その設置の様子。例示されている設置場所は重量軽減の間。 (Credit: Mohamed ELGabry, et al.)

    それでは、ピラミッドのような巨大な建造物の固有振動数はどのように測定するのでしょうか。エジプト国立天文地球物理学研究所のMohamed ELGabry氏などが採用した手法は、「常時微動」のHVSR (水平上下スペクトル比) を調べるものです。常時微動とは、風や波などの自然現象、車や工場などの人為現象の両方によって発生している微弱な揺れのことです。身体で感じることができないほど小さいですが、それでも専用の機器を使えば測定可能です。

    常時微動を測定し計算すると、HVSRという波の性質を数値化したものが得られます。このHVSRからさらに計算を行うと、建造物と周辺地盤の両方の固有振動数を測定することができます。この計算方法は、手法を確立した中村豊氏に因み「中村法」と呼ばれています。

    中村法は、ピラミッドのような歴史的建造物の調査に適した手法です。専用の測定器をいくつか設置するだけで測定できるため、短時間かつ非破壊的に固有振動数を求めることができるからです。実際、今回の研究では、高精度なデータを取得するために測定時間を長めに設定したものの、それでも1ヶ所あたりの測定時間は15分でした。

    今回の研究では、観光客やその他の人がいないタイミングで、ピラミッドの外部と内部、および周辺地盤の合計37ヶ所で常時微動の測定を行いました。そして測定結果から計算されたHVSRを中村法に適用することで、ピラミッド本体の固有振動数と、ピラミッド周辺の地盤の固有振動数の両方を推定しました。

    意図的か偶然か?ピラミッドの耐震が判明

    ギザの大ピラミッド内部の構造図。王の間や重量軽減の間、通路などの配置を示している。
    図3: ピラミッドの内部構造。11番が、地震の揺れの増幅を軽減することが分かった重量軽減の間。4番が固有振動数のズレがみられたアル=マムーンの通路。 (Credit: Mohamed ELGabry, et al.)

    常時微動の計測と、中村法の適用による計算の結果、ピラミッドの固有振動数に関するユニークな結果が得られました。

    まず、ピラミッド本体の固有振動数は2.0~2.6Hz (平均2.3Hz) でした。興味深いことに、ピラミッドは上に行くほど先細りする形であるにも関わらず、今回測定された最大高さ61mまで、ほぼ同じ値を示していました。これは、地震のような振動に対して、均質な反応を示していることになります。振動に対する反応が不均質な場合、ねじれによってダメージが発生する恐れがあるため、均質な反応というのは耐震性に関しては好ましい性質です。

    そして、地盤の固有振動数は0.60Hzと計算されました。ピラミッド本体の2.0~2.6Hzとは大きな差があることから、大きな地震が起こっても、ピラミッド本体に揺れが伝わる効率が悪く、結果として地震に強くなっている可能性があります。

    今回、内部構造と固有振動数に関するユニークな結果が得られました。1つは「重量軽減の間」での測定結果です。重量軽減の間とは、ピラミッドのほぼ中心にある玄室とされる空間「王の間」のすぐ上にある、5段重ねの天井の低い空間です。名前の通りこの空間は、王の間が空洞であることによって発生する、周辺からの力を軽減するために設けられていると考えられています。今回の計測結果からは、ピラミッドは一般的に上に行くほど揺れが増幅されやすいことが示されていましたが、重量軽減の間だけは例外でした。ここだけは、高さが増すほど揺れの増幅が抑えられていたのです。

    もう1つは「アル=マムーンの通路」での測定結果です。これは一般的に、9世紀のイスラム帝国のカリフ、アル=マムーンが開けさせた盗掘口だと言われている通路です。実際に穴を開けたのはアル=マムーンではないという論争はあるものの、いずれにしてもこの通路は後付けで掘られたトンネルなのは間違いありません。興味深いことに、アル=マムーンの通路での固有振動数は1.3~1.4Hzと測定されました。ピラミッドの他の場所では2.0~2.6Hzであることを考えると、これはかなり低い値です。その理由は明らかではありませんが、ピラミッドの建設当時には存在しなかった構造が影響している可能性があります。誰が掘ったのかはさておき、ピラミッド建設当時には存在しない空洞であり、少なくとも建設当時の意図には含まれていないないからです。

    ただし研究者は、今回の研究結果を受け止める上で、1つの注意点を述べています。それは、地震に強いピラミッドの構造が、意図的に設計されたものであるかどうかは分からないという点です。今回の研究はあくまで、ピラミッド本体と周辺地盤との間に固有振動数の大きなズレがあること、その結果としてピラミッドが地震に強い可能性があることを示しただけです。

    ピラミッドを設計した人々は、全く意図せずに地震に強い建造物を作り出し、重量軽減の間は偶然にも揺れの増幅を抑える役目を果たしているだけなのかもしれません。そもそも、ピラミッドが残っていなければこのような議論もできないため、4,500年以上生き残った生存者バイアスも考慮する必要があります。
    ピラミッドの設計時に耐震性が含まれていたのかどうかや、今後ピラミッドを保護していく上で地震対策が必要かどうかを知るには、今回の研究以上に様々な調査をする必要があります。今後の研究では、ピラミッドの振動の性質について、他の角度からも検証していく必要があると研究者は述べています。

    【参考文献】
    ●Mohamed ELGabry, et al. "Architectural and geotechnical aspects affecting earthquake resilience for the antique Egyptian Khufu pyramid". Scientific Reports, 2026; 16, 14032. DOI: 1038/s41598-026-49962-6

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    サイエンスライター

    彩恵りり Rele Scie

    「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。

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