「なぜトラは縞模様?」などの動物の色や模様の疑問についてオンラインゲームを通じて検証!
遺伝的アルゴリズムで再現された“進化”。模様と環境の知られざる関係に迫る。
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トラはなぜ縞模様なのでしょうか? あるいは一般的に、動物の身体の色や模様はどのようにして決まっているのでしょうか? いくつかの動物には理由に関する仮説はありますが、そのほとんどは野生動物の観察による推定に留まっており、もっと具体的な実験は行われていません。
エクセター大学のGeorge R. A. Hancock氏とJolyon Troscianko氏、およびブリストル大学のInnes C. Cuthill氏の研究チームは、環境条件によってどのような色や模様の違いが生まれるのか、疑似的な "進化" を再現する「遺伝的アルゴリズム」の手法で検証しました。この遺伝的アルゴリズムの基盤となるのは、1764人のプレイヤーが参加したオンラインゲームによる結果に基づくというのが、今回の研究のユニークなところです。
その結果、トラのような縞模様が得られるのは、良く晴れた、草が生い茂っている環境の時に生じやすいなど、模様や色と環境条件の結びつきが示唆されました。今回の研究では、一見すると無地単色の単純な模様でも、条件次第ではカモフラージュになり得ることが示唆されるなど、興味深い結果も得られています。
トラはなぜ縞模様か? シンプルながら解決困難な疑問

「トラはなぜ縞模様か?」という疑問を抱いたことはありますか? 「植物が生い茂っている背景に溶け込むカモフラージュのため」という回答をする方もいるでしょう。下草が生えている場所に入り込んだトラは見つけづらいことを、写真付きの説明などで見たことがある方もいるかもしれません。
しかしそうだとすると、「なぜ他の動物は縞模様でないのか?」という疑問も浮かぶはずです。カモフラージュで姿を消す需要は、何もトラのような捕食者だけではありません。食べられる側である被食者も隠れたいはずです。このため、捕食者であれ被食者であれ、カモフラージュできる模様を持つはずだと言うことを考えると、どの動物も縞模様を持っていても不思議ではないはずです。しかし実際にはそうなってはいません。
また、自然界は常に環境が変化するという点はしばしば見落とされがちです。同じヤブや草むらであっても、季節が変われば植物は枯れ、高さが低くなったり色が変わったりします。また、真昼間なのか朝夕なのか、晴れているか曇っているかによって、日光の当たり方が変化し、色の印象も変化します。そして、動物は動く生き物であるため、背景に対して模様も動くことになります。条件次第では、縞模様以外の方がカモフラージュに最適だという可能性もある訳です。
動物の模様は実に多種多様であり、カモフラージュに使っているのか、それとも異性や仲間へのアピール目的につかっているのかなど、模様の意味が明確ではないものも珍しくありません。この多様性に対して研究は追いついていないため、模様の機能に関する考察は、多くの場合は観察研究により推定されています。観察という性質上、どうしても人間の考え方で解釈する部分が混ざるため、その考察が正しいかどうかは明確ではありません。
このため、トラの縞模様のように、特定の動物が特定の模様を選択した理由について、根本的なところに未解明な部分があるというのが現状です。
オンラインゲームで色や模様の効果を検証!

エクセター大学のGeorge R. A. Hancock氏とJolyon Troscianko氏、およびブリストル大学のInnes C. Cuthill氏の研究チームは、色や模様ごとに見えやすさが、環境条件によってどのように変化するのかを調べる研究を行いました。今回の研究でユニークなのは、見えやすさの判定を行うのにオンライン形式のゲームを利用したという点です。
人間の視覚は、特に捕食者側の動物とよく似ていることが知られています。このため人間でテストすれば、野生動物では難しい見えやすさのテストを代わりに行うことができます。また一般的には、捕食者は被食者と比べると、正確に獲物の位置や距離を見分けるために、視覚が複雑である傾向にあります。捕食者側の視点でカモフラージュが効いている場合は、被食者側でもカモフラージュが効いていると考えることができます。
そのため今回の研究では、「様々な色や模様を持つ球体のターゲットをなるべく早く見つける」というオンラインゲームを構築し、動物が持つ色や模様の見えやすさの判定を行いました。
まずはゲームの概要について説明しましょう。ゲームの参加者は、様々な背景画面の中に配置されたターゲットを探します。ターゲットが見つかるまでの秒数、言い換えれば捕食者側の目線である人間からの "生き残りやすさ" を記録します。
ターゲットそのものは様々な色や模様を持ちますが、これに加えて84通りの環境の違いがターゲットの見つけやすさに影響を与えます。例えば草原と砂地、晴天と曇り空では、周りにあるモノや光源が異なるため、見え方も変化するはずです。このような違いを生み出すため、研究チームはイギリス各地で自然環境を撮影し、可能な限り実物を撮影した状態に近いターゲットのレンダリングを構築しました。
このようにして構築したゲームの中で、参加者は24回連続でターゲットを見つけます。背景は全84通りの中からランダムに選ばれ、ターゲットの色や模様もランダムで変化します。このようにして参加者の個人差をできるだけ抑えながら、ターゲットの捜索時間を記録します。

そして、ここからがこの研究の面白いところかもしれません。ターゲットの中には見つかりにくいものもあれば見つかりやすいものもあります。見つかりやすかった下位50%の色や模様は "生き残れなかった" と判定される一方、見つかりにくかった上位50%の色や模様は "生き残った" と判定されます。
動物は生き残ったものが子孫を残せるように、ターゲットも "生き残った" ものが次の世代を残せます。そして動物は交配によって父母双方の特徴を遺伝子として引き継ぐように、ターゲットの色や模様の特徴も引き継ぎます。このように、実験の特定の段階で "生き残った" もの同士を交配させ、特徴を引き継いだ次世代を生成するシミュレーションを「遺伝的アルゴリズム」と呼びます。これは動物が世代交代を重ねて進化する様子をコンピューター上で再現していると言えます。
なお(今回の実験を含め)実際の遺伝的アルゴリズムでは、実際の動物の進化を再現した要素が含まれます。例えば、交配させた世代の特徴のうち、どれが次世代に引き継がれるのかはランダムに選ばれます。また、ランダムに突然変異も発生します。このようなランダム要素は、自然界での進化をなるべく再現するために加えられる工夫です。
今回の研究で行われたゲームでは、24回連続でターゲットを見つける作業を1セットとし、次のセットでは遺伝的アルゴリズムで生成された新たな色や模様のターゲットを見つけます。このようにターゲットの捜索と遺伝的アルゴリズムを繰り返し、20セット=20世代目で生まれる色や模様、そしてこれらのターゲットが見つかりにくい環境条件を最終結果としました。
シンプルな模様がカモフラージュ効果を得ることもある

1764人のプレイヤーによる計42,336のターゲット捜索の最終結果から、複数の興味深い知見が得られました。例えば全体の傾向として、晴天条件の方が曇り空の条件よりもターゲットを見つける時間が長くなることが分かりました。これは、背景にある草木の影が濃くなり、背景全体の複雑さが増すためと考えられます。

この影響を反映してか、20世代目のターゲットは、縁がはっきりした縞模様を持ち、全体の色が暗い傾向にあるだけでなく、上半分が下半分と比べて暗い色になる傾向にありました。縁がはっきりした縞模様はまさにトラの縞模様の再現とも言え、分かりやすいでしょう。
上半分が下半分と比べて暗い色になるのは、カウンターシェーディングの再現であると考えられています。トラに限らずアンテロープやホホジロザメなどは、身体の上半分が、下半分と比べて暗い色になります。上から見ると、周りの影に紛れるには暗い色が有利であり、一方で下から覗き込むと、光源に対して明るい色が有利になります。カウンターシェーディングはいくつもの動物で見られますが、今回の実験で現れたのは興味深いです。
多くの捕食動物は、夜明けや夕暮れ時に活動が活発になる事実を踏まえると、今回の研究結果はより興味深くなります。日の出日の入りの時間帯は太陽の高度が低いため、影も長くなる傾向にあります。縞模様は単に草木に似せているだけでなく、草木が落とす長い影に紛れるための模様であることが、今回の研究から推定できるのです。

逆に、曇り空や木陰のように光が強くなく、小石のように影が伸びにくいものを背景とする環境では、ターゲットの模様は単純化する傾向にありました。このような単純な模様はノロジカなどに見られます。単純な模様は一見するとカモフラージュに適していないように見えますが、今回の研究結果からすると印象は変わります。単純な模様は、背景が単純で変化に乏しく、晴天の期間が短い環境においては、十分にカモフラージュになり得ることが示唆されるのです。
今回の研究は、様々な環境条件における色や模様のカモフラージュ効果に関する包括的なテストを行えたという点で、とても意義深いものです。もちろん、ターゲットの形が単純な球体であり、低い草木にまぎれる大きさであるなど、どうしても限界はありますが、これまで限られた観察結果に依存していたことと比べれば、より実証的な裏付けが得られていると言えます。
研究チームは論文の最後にて、気候変動や都市化などによる環境変化は、動物のカモフラージュ戦略にかけるコストやメリットが変化していることを指摘し、絶滅の心配がある動物の保護戦略を構築する上では、カモフラージュ戦略の正確な理解が不可欠であると提言しています。気候変動や都市化は、植物や岩石の様子など、カモフラージュに使う景色を変えてしまいます。そしてその変化のスピードは、世代交代による動物の色や模様の変化のスピードよりはるかに急速です。これまで有効だったカモフラージュ戦略が機能しなくなれば、捕食者が過度に被食者を捕まえてしまうことや、逆に捕食者が過度に被食者に対する狩りに失敗するなど、食物連鎖におけるバランスが崩れてしまう恐れがある訳です。
今回の研究は、そうした理解に向けた重要な一歩であると考えられます。
●George R. A. Hancock, Innes C. Cuthill & Jolyon Troscianko. "Shining a light on camouflage evolution: Using genetic algorithms to determine the effects of geometry and lighting on optimal camouflage". PLoS One, 2026; 21 (4) DOI: 10.1371/journal.pone.0346231
●Alex Morrison. (Apr 29, 2026) "Online game reveals secrets of animal camouflage". University of Exeter.

サイエンスライター
彩恵りり Rele Scie
「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。

