白亜紀末の大量絶滅後、2000年未満で新種が出現していた

大量絶滅という環境の激変の後でも、新種の出現と生物多様性の回復は驚くほど早い!

目次

    平時に新しい種が生まれるには、平均で200万年かかると言われています。しかし、多くの生物種が絶滅する「大量絶滅」が起きた後は、滅びた種の穴埋めをするかのように、普段よりずっと早く新種が出現すると考えられています

    例えば、直近の大量絶滅である6600万年前の大量絶滅では、わずか3万年後に新種の有孔虫が出現したと考えられています。ただし、この3万年という数値は「地層の堆積速度が一定である」という仮定に基づいており、絶対的な値とは言えませんでした。

    白亜紀末の大量絶滅により、海棲爬虫類が絶滅した一方、海では新たな種となるプランクトンが現れています
    図1: 今回の研究内容を表したアート。白亜紀末の大量絶滅により、海棲爬虫類が絶滅した一方、海では新たな種となるプランクトンが現れています。今回研究対象となったのは微生物有孔虫であり、左上の丸っこいイラストのものです。 (Credit: John Maisano (The University of Texas at Austin Jackson School of Geosciences) )


    テキサス大学オースティン校のChristopher M. Lowery氏などの研究チームは、地層の堆積速度を測定することができる方法によって、大量絶滅後の正確な年代を調査しました。その結果、最短の種では2000年未満という速度で新種の有孔虫が出現していることが分かりました。また、数千年以内に10種以上の有孔虫が出現していることも分かりました。

    今回の研究結果は、大量絶滅という環境の激変の後でも、新種の出現と、生物多様性の回復が驚くほど早いことを示唆しています。これは現在を含めた、他の大量絶滅の時代にも適用されるかもしれません。

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    大量絶滅は新種の出現を促す

    新しい生物種が生まれるのにかかる時間は、平常時は平均で200万年かかると言われています。この長いタイムスケールに関連して、生物学には「ニッチ」と呼ばれる考えがあります。
    生物学の「ニッチ」とは、簡単に言えば、生物的に存在できる地位があるという意味で、 既に競合相手がいるような生息域に新たな生物が入り込むことは難しいということです。

    例えば、哺乳類は陸上に生息する動物として広く存在しますが、水中は魚類、空中は鳥類という競合相手がいるため、水中や空中に生息する哺乳類は、クジラやコウモリのような例外的な存在となってしまいます。このように競合相手が存在し、ニッチが埋まっている状況は、新たな生物が入り込む余地を少なくします。

    しかし裏を返せば、何らかの理由でその生物種の数が減るなどすると、ニッチに入り込む余地ができることになります。

    もし、そのニッチに入り込み適応すれば、新たにそのニッチを支配できることになるでしょう。これは往々にして適応と進化を伴うことから、新たにニッチを埋めた生物種は新種となります。ただし、ニッチを埋めていた生物が数を減らすような変化は、平常時はゆっくりと起こることから、「新種が生まれるのに平均200万年かかる」となるわけです。

    しかし、短期間に大量の生物種が絶滅するような「大量絶滅」があると、この流れは大きく異なります。ニッチを埋めていた生物が完全に滅びてしまうため、競合相手がゼロの空席となったニッチがたくさん出現するためです。このような場合、生物は驚くべきスピードで進化を遂げることが分かっています。


    白亜紀末の大量絶滅から新種の出現までどれくらいかかった?

    今から6600万年前、中生代白亜紀末の大量絶滅が起こりました。「チクシュルーブ・クレーター」という天体衝突痕の発見により、その原因は天体衝突であることがほぼ確定しています。この大量絶滅は、それまで陸上を支配していた (鳥類の系統を除いた) 恐竜が絶滅したことで、陸上の支配者が哺乳類へと大きく変化したきっかけとなっています。このような極端な状況では、哺乳類に限らず、様々な生物が新種として出現しました。

    では、最短でどれくらいの速さで新種が出現したのでしょうか?中生代白亜紀と新生代暁新世の境界の地層である「K/Pg境界」に見られる微生物「有孔虫」の化石がその答えを握っています。有孔虫とは、石灰質の殻の中に軟体の身体を持つ生物であり、いわゆる星の砂も有孔虫の1種です。

    白亜紀末の大量絶滅後に新たな種が出現した指標となっている有孔虫「パルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナ」の電子顕微鏡写真
    図2: 白亜紀末の大量絶滅後に新たな種が出現した指標となっている有孔虫「パルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナ」の電子顕微鏡写真。 (Credit: Chris Lowrey)


    有孔虫は大量絶滅の影響を大きく受けた生物の1つであり、白亜紀末に90%が絶滅したと言われています。多くのニッチが空席となった結果、すぐに新種が出現する環境が整ったわけです。特に、暁新世で初めて現れた有孔虫「パルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナ (Parvularugoglobigerina eugubina)」は、白亜紀末の大量絶滅の後、新種が現れるまでの期間を示す指標 (P0帯) ともなっているのです。

    これまで、大量絶滅後から新種の有孔虫が現れるまで、その期間は約3万年であると見られていました。これは普段の70倍も高速です。しかし、この3万年という時間の長さは、地層の堆積物が、一定の速度で堆積したという仮定の下で計算された値です。このため、この仮定が正しくない場合、3万年という数値も正しくなくなってしまいます。

    実際、堆積速度が一定ではない可能性が高いと指摘する研究も複数発表されています。これは、有孔虫などの石灰質プランクトンが減ることによる石灰質の供給量の低下にくわえ、陸上の植物が減ることで土壌の保持力が失われ、土砂の流入量が大幅に増加したと推定されるためです。

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    大量絶滅から2000年未満で新種が出現していた!

    テキサス大学オースティン校のChristopher M. Lowery氏などの研究チームは、堆積物の堆積速度を直接測る方法で地層の時代を正確に特定し、大量絶滅後に新種が現れる速度を改めて推定しました。カギとなるのは「ヘリウム3」という物質です。

    ヘリウム3は地球上では珍しい物質であり、特に地中にはほとんど含まれていません。一方で宇宙に目を向けると、ごく少量ながら、星々の間にある微細な塵 (惑星間塵) の中に含まれています。惑星間塵は地球に落下して少しずつ降り積もっていますが、その速度は100万年単位で一定値を保っていることが分かっています。

    この性質を利用すれば、堆積物の堆積速度を直接測ることが可能です。地層に含まれるヘリウム3のほとんどは宇宙由来であると見なせるため、「ヘリウム3の濃度が高ければ堆積速度は遅く、低ければ堆積速度は速い」ということになります。この速度から、有孔虫の新種が出現するまでの正確な時間を測ることができます。

    K/Pg境界を含む地層の例 (チュニジア、ケフ)
    図3: K/Pg境界を含む地層の例 (チュニジア、ケフ) 。この地点では、大量絶滅後から6600年後にパルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナが見つかりました。 (Credit: Julio Sepúlveda & Chris Lowery)


    Lowery氏らは、世界の6地点からK/Pg境界の地層を採集し、ヘリウム3の濃度から堆積速度、そして正確な時間を測定しました。そして、指標となっているパルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナだけでなく、暁新世で初めて出現したとみられる、他の有孔虫の出現時期についても調査しました。

    その結果、指標となっているパルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナは、大量絶滅からわずか6400年で出現していることが分かりました。なお、これは6地点の平均値であり、最も早いところでは3500年後に出現しています。

    また、その他の種についても調べてみると、少なくとも10種から20種が約6000年間で出現し、中には2000年未満という短期間で出現している種もありました。有孔虫の種の数え方に議論があるため、正確な種数ははっきりとしませんが、従来の3万年という推定と比べると、平均値でも5倍、最短では15倍も速く新種が出現していたことになります。あるいは、平常時 (200万年) と比べて最速で1000倍も速く新種が出現したと言い換えることもできます。今回の研究内ではこの速さを「電光石火 (Lightning-Fast) 」と表現していますが、最速で1000倍と聞けば、その理由が分かるかと思います。


    生態系の回復力の強さを示唆する研究

    今回の研究は、新種が出現する速度を測っただけではありません。新しい生物種が生まれるということは、生物が生存可能な環境がそこにあるということを意味するためです。生存可能な環境とは、単に光や温度などの自然環境だけでなく、他の生物の数が増え、生態系が回復していることも含めた言葉です。今回の研究結果は、新種の出現速度と共に生態系の回復速度も想像以上に速いことを示しています。

    例えば、6地点のうちの1地点では、パルウラルゴグロビゲリナ・エウグビナが出現するまでに4360年から6670年かかっていますが、その地点とは、冒頭で説明したチクシュルーブ・クレーターです。白亜紀末の大量絶滅の引き金を引いた天体衝突が起きたまさにその現場で新種が見られるということは、最もひどいダメージを受けた場所ですら、驚くほど速く生態系が回復していることを示しているのです。

    地球の歴史において、大量絶滅は確実なものだけでも5回あったとされており、小規模なものはかなりの数があったと推定されています。そして、現代はヒトの活動によって6回目の大量絶滅が起きているとする考えもあります。今回の研究手法そのものや、新種が出現する速度、生態系の回復速度がそのまま他の時代に当てはまるかは分かりませんが、この研究結果は分からない部分を解明する研究に弾みをつける成果となりそうです。


    【参考文献】
    Christopher M. Lowery, et al. "New species evolved within a few thousand years of the Chicxulub Impact". Geology, 2026. DOI: 1130/G53313.1

    Kalen Landow. (Jan 21, 2026) "Scientists Find Extremely Rapid Evolution of New Species After the End-Cretaceous Mass Extinction". Geological Society of America.

    Anton Caputo, Monica Kortsha & Aaron Nieto. (Jan 21, 2026) "Evidence of 'Lightning-Fast' Evolution Found After Dino-Killing Asteroid Impact". The University of Texas at Austin.

    Adam Smeltz. (Jan 28, 2026) "New species emerged faster than thought after dinosaur extinction, study finds". The Pennsylvania State University.
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    サイエンスライター

    彩恵りり Rele Scie

    「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。

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