日光をよく反射するのに眩しくない?「放射冷却フイルム」を解説!
太陽熱を“逃がす”新発想とは?従来遮熱材と異なる熱マネジメント
ギジュツのよみもの
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みなさんは暑さは得意ですか?それとも苦手ですか?筆者は暑いのが苦手だと声を大にするところです。
このような暑さ対策、特に室内の温度を下げる方法として真っ先に考えられるのは空調を使うことですが、別の対策として、温度上昇の原因となる熱そのものを対策する方法も考えられます。最も単純で効果的なのは、地上の物体の主要な熱源である太陽エネルギーを受け取らないようにするという方法です。このためには、太陽光を反射するか、一度受け取ったエネルギーを再度放出する工夫が求められます。
このような熱対策を行う材料の1つとして「放射冷却フイルム」があります。これを外壁や屋根に貼り付けることで、熱を反射・放射し、エネルギーを消費することなく温度上昇を防ぐことができます。しかし、単純に反射させるだけでは、鏡のように眩しくなってしまいます。これを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?
この記事では、放射冷却フイルムの基本的な原理と、それに関連する技術的工夫について紹介します。また、それらの技術が使われている、バンドー化学が開発した放射冷却フイルム「Silver Arrow®」についても紹介します。

放射冷却フイルムの基本的な仕組み
地面や建物の外壁など、屋外に置かれた物体の温度は、その物体が太陽エネルギーをどれくらい受け取るのかで概ね決まります。このため、物体の温度上昇を抑えるには、太陽エネルギーを受け取らないようにすることが単純ながら最も効果的な対策となります。
この対策は、建物の室内やトラックの荷台の内部など、直接屋外と接していない空間であっても有効です。外部で受け取ったエネルギーが、壁や天井の部材から伝導する熱の形で温度上昇に繋がるからです。
具体的な対策としては、「太陽光の反射」と「一度受け取ったエネルギーの放出」が挙げられます。
1つ目の「太陽光の反射」は、比較的わかりやすい対策です。エネルギーそのものを反射すれば、そもそも受け取らないからです。炎天下に駐車した車の温度上昇を抑えるため、フロントガラスに銀色の日よけを置く対策をしている方もいるかと思いますが、これと同じことをすれば温度の上昇を抑えられます。
2つ目の「一度受け取ったエネルギーの放出」は少し仕組みが複雑です。物体の温度が高い状態から低い状態へと変わる際、熱は赤外線の形で放出されます。赤外線の一部の波長は、他の波長と比べて地球大気に吸収されにくいという性質があり、これを「大気の窓」と呼びます。熱が宇宙空間へと逃げるため、大気の窓に当たる波長で赤外線を放出できれば、他の波長と比べて効率よく熱を逃がすことができます。秋から冬にかけての天気予報で放射冷却現象という単語を聞いた方もいるかと思います。


Silver Arrow®の特徴1: 銀ナノ層の眩しさを軽減する技術
太陽エネルギーの反射や放射冷却によって温度を下げることを期待するものとして、遮熱塗料や放射冷却フイルムがあります。どちらも、すでにある外壁や天井に後付け施工できるという点は似ていますが、その他の特徴は大きく異なります。遮熱塗料は文字通り塗料であるため、塗装する必要があり、どうしても日数がかかる工程となります。また、二酸化チタンをベースとした白色をしているため、銀色と比べると反射率が低いという特性もあります。
バンドー化学の「Silver Arrow®」は、放射冷却フイルムの1つです。名前の通り、視覚的に最も目立つのは銀色の反射面です。これは実際には非常に薄い銀箔とも言える銀ナノ層であり、銀を蒸着することで、とても薄くて平らな銀の反射面を構成しています。銀は様々な波長の可視光線に対する反射率がとても高い理想的な材料であるため、他の銀色の金属よりも効果が見込めます。
しかしながら、単に銀ナノ層を施しただけの放射冷却フイルムには問題があります。理想的な反射をする銀ナノ層は鏡そのものであり、反射した日光によって周りに光害をもたらしかねません。また、銀は柔らかく、比較的腐食しやすい金属です。これらの理由から、剥き出しのまま環境に晒すことには難があります。
Silver Arrow®に限った話ではありませんが、放射冷却フイルムには眩しさと金属腐食の両方を防ぐため、金属層表面に樹脂を主体とした保護層や防眩層を設けています。
防眩性を付与する層として、多くの場合シリカ (二酸化ケイ素) の粉末を混ぜた樹脂が使用されています。シリカ粉末は光を散乱させるため、防眩効果があります。しかし、シリカ粉末はトップ層の透明性が低下する原因となり、太陽エネルギーを吸収するようになってしまうため、肝心の反射性能が低下してしまいます。

Silver Arrow®においては、このトップ層に透明な樹脂を使っています。シリカ粉末を混ぜないため光の透過率が上がって放射冷却フイルムの性能を十分に発揮できますが、一方でシリカ粉末を混ぜない分、当然反射面へ入射する光の量が増えます。このままでは、可視光線の反射が強く、鏡のような状態となるため、眩しさが強くなってしまいます。
そのため、透明な樹脂で防眩効果を付与するため、このトップ層には微細な凹凸が付けられています。凸凹な面に光が当たれば乱反射が発生し、特定の方向に光が集中しなくなり、眩しさが軽減されます。バンドー化学は、この加工技術および製法で特許を取得しています。
放射冷却フイルムに限らず、通常「コーティング」と言えば、なるべく凸凹のない平滑な面を目指すところに技術の重きが置かれています。一方でSilver Arrow®の場合は、意図的に凸凹を付ける加工を行うという、普通とは逆の方向に特許技術が使われています。

凸凹の面 (凸構造) を持たせた透明な樹脂は、シリカ粉末を混ぜた樹脂と比べて、吸収する太陽エネルギーが小さくなります。では、その差はどれくらいになるのでしょうか?実際に測定したところ、以下のような結果が得られています。(比較試験用に作成したサンプルのデータであり、実際のSilver Arrow®の製品データではありません。)

凸構造を持たせた機材と、シリカ粉末を混ぜた機材とで、吸収する太陽エネルギーを比較すると、約11W/m2の差が出ました。簡単に言えば、凸構造を持たせた機材は吸収する太陽エネルギーが小さいため、それだけ温度上昇幅が小さくなります。より具体的に説明すると、仮に比熱が1000J/(kg・K)の機材で比較した場合、凸構造を持たせた機材は、シリカ粉末を混ぜた機材と比べて、0.011K/秒の温度上昇幅の差が生じます。これは5分で3.3℃の差が生じるのとほぼ等しいことになり、感覚的に理解できるほど温度上昇を抑えることができます。
これらの工夫により、Silver Arrow®の遮熱率は業界最高水準を記録しています。そして性能を確かめる実験では、いずれも高い性能が明らかにされています。簡易試験では24℃もの温度差が発生しており、空調レスや空調の消費電力の大幅削減が期待できます。


空調を利かせたユニットハウスの外側、壁と屋根に貼り付けた場合、晴天の日では40%以上、曇天の日でも30%以上、電力消費が削減されました。また屋根のみに貼り付けた場合でも、1ヶ月の累計で25%の電力消費が削減されました。
Silver Arrow®の特徴2: 施工のしやすさ
ところで、放射冷却フイルムに限らない一般的なフイルムに当てはまる事情として「端部処理」の必要性が挙げられます。壁や屋根に何かしらの機能を後付けする場合、大抵は大掛かりな工事を伴うことになります。その点、フイルムは何かの上に貼り付けるだけで施工が完了するため、その容易さがセールスポイントとなります。
しかし、フイルムは後付けで貼り付ける関係上、各層が腐食・劣化すれば剝がれてしまう欠点があります。これは壁面に直接接する粘着層だけに限らず、フイルムを構成する各層の間に対しても同様です。特にこの劣化は、保護層がない状態で環境に直接晒される端部から進みます。
フイルムの機能を長持ちさせるには、テープや充填剤で端部を保護する追加の作業が必要です。先ほど「貼り付けるだけで施工が完了する」がフイルムの利点と述べましたが、実際には端部処理が必須なものもあるわけです。端部処理を完璧に行い、なおかつ見た目をきれいにしようとするほど、この追加の作業の難易度は高くなります。つまり端部処理は、フイルムの利便性を幾分か相殺してしまうことになるのです。
Silver Arrow®の場合、この端部処理は「推奨」となっています。つまり、端部処理をやった方が良いには違いないものの、必須ではないため、「そのまま貼って使える品質」を実現しているわけです。これは施工性を向上させる、Silver Arrow®の特徴の1つです。
バンドー化学は独自のコンバーティング技術 (フイルムのように薄い素材に対して塗装・切断・接着・印刷する技術の総称) を有していますが、特にフイルムを構成する、異なる材料同士を貼り合わせる層間接着力の強さに関する技術に強みがあります。そのノウハウを生かした最適な技術設計の結果がSilver Arrow®であると言えます。

まとめ
近年は異常な暑さが、ある意味で "普通" となっていますが、これは地球温暖化に伴う気候変動が影響しています。短期的な健康問題は冷房をつけることで解決しますが、これに対する電力消費は結局のところ温室効果ガスの排出に繋がるため、長期的な目線での解決策も並行して求められます。
この記事の〆として、上記の需要に応えるために求められる放射冷却フイルムの性能と、それに対するSilver Arrow®の答えを以下に挙げましょう。
● 高効率の可視光線の反射: 銀ナノ層で実現
● 高い放射冷却能力: トップ層の樹脂で実現
● 防眩性: 透明な樹脂に微細な凹凸をつけることで実現
● 易施工性: 端部処理を推奨とし、未処理でも使えるようにすることで実現
放射冷却フイルムは、電力を使わずに温度を下げるという意味で、効果を発揮することが期待されます。二酸化炭素排出量の削減という全世界的な課題の解決は、1つの方法でうまくいくものではなく、複数の方法を組み合わせた複合的なアプローチが必要となります。Silver Arrow®を始めとした放射冷却フイルムは、課題解決の方法の1つとして活用できるかもしれません。

サイエンスライター
彩恵りり Rele Scie
「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。


