小型ロケットの打ち上げ続々 衛星が作り出す未来の世界とは
~小型衛星の役割と衛星コンステレーションについて解説~
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目次
宇宙産業の市場規模と小型衛星打ち上げ数の推移
世界の宇宙産業の市場規模は右肩上がりを続けており、2040年までには100兆円規模になると予想されています(図1)。

(出所:経済産業省「第1回宇宙産業プログラムに関する事業評価検討会中間評価/終了時評価 補足説明資料」)
https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000R03/220114_space_1st/space_1st_08-1.pdf p4
そして、2019年では、世界の宇宙産業の内訳は以下のようになっています(図2)。

(出所:日本政策金融公庫「コンステレーションビジネスで広がる中小企業の宇宙産業への参入機会」)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_21_08_26b.pdf p2
衛星に関わるもの(衛星サービス、それに伴う地上設備、衛星の製造・打ち上げ)だけで全体の74%を占めており、宇宙産業の中でも衛星がいかに注目を集めているかがわかります。
特に、小型衛星(200kg以下)の打ち上げ数はこの10年近くで大きく伸びています(図3)。

(出所:日本政策金融公庫「コンステレーションビジネスで広がる中小企業の宇宙産業への参入機会」)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_21_08_26b.pdf p2
小型衛星の打ち上げ数がここまで急増した背景には「衛星コンステレーション」技術の進歩があります。
イーロン・マスクがウクライナに5000台提供した「あるモノ」
ロシア軍から侵攻を受けているウクライナからは、その直後から政府声明やスマートフォンで撮影した大量の動画が世界に発信されつづけています。
インターネットやSNSが当たり前のものになっている現代では疑問を抱く人は少ないかもしれませんが、よく考えてみれば通信施設の破壊などが発生していてもおかしくない戦争下の国です。
なぜこのようなことが可能なのでしょうか。
その背景にあるのが、「衛星コンステレーション」という技術の進歩です。
衛星コンステレーションとは
「コンステレーション」は「星座」という意味です。
複数の星の集団が星座を描くように連携・連動してひとつのミッションを果たすのが衛星コンステレーションの技術です(図4)。
まさに複数の衛星を、星座を描くように結び運用する技術、というわけです。

(出所:JAXAプレスリリース「36機の小型SAR衛星による準リアルタイムデータ提供サービス事業の創出に向けたJ-SPARC事業コンセプト共創の開始について」)
https://www.jaxa.jp/press/2020/02/20200226-2_j.html
従来は、ひとつの衛星にひとつのミッションを与えて打ち上げるというのが主流でした。
しかし衛星の小型化・ロケット打ち上げ技術の向上でコストダウンが進んだこともあり、一度に、あるいは続けて多くの衛星を打ち上げ、それらを地球を覆うように配置して情報通信などのために連携させるというシステムが実用化されています。
中には数十個、数百個の小型衛星で構成されるものもあり、これらは「メガコンステレーション」と呼ばれます。
4万2000個の衛星からなるシステム
テスラのイーロン・マスク氏が設立したSpaceXは、地球全体で高速インターネットアクセスを提供できるよう「スターリンク」という衛星通信システムを構築しています。
衛星の打ち上げは2019年から始まりました。そして22年3月末までに打ち上げられた衛星は2335個にのぼっています。

(出所:SpaceX「LAUNCHES」、2020年9月4日付掲載)
https://www.spacex.com/launches/
最終的には合計4万2000個の衛星からなるという、巨大なシステムが構築される予定です。*1
副首相がイーロン・マスク氏に直接呼びかけ
2022年2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まりました。
その直後、ウクライナのフョードロフ副首相兼デジタル転換相が、Twitterを通じてイーロン・マスク氏に直接助けを求めています(図6)。

https://twitter.com/elonmusk/status/1497701484003213317
そしてイーロン・マスク氏はすぐこの要請に応え、米国際開発庁(USAID)によれば、スターリンクを利用できる端末を5000台ウクライナに送っています。*2
この端末を建物の屋根などに設置することで、スターリンクの衛星通信網を使えるようになり、インターネットへの安定したアクセス維持が可能になっているのです。
これまで利用していた通信インフラがいつ破壊されてもおかしくない状況にもかかわらず、常に現地からの画像や動画が頻繁にアップロードされているのはこのためです。

(出所:SpaceX「STARLINK」)
https://www.starlink.com/
衛星コンステレーション技術は農業や金融でも活躍
また、規模は異なりますが日本が4個の衛星で運用しているコンステレーション「みちびき」には、様々な用途が期待されています。
GPS衛星との連携で位置情報の精度が上がれば自動運転に役立つほか、「みちびき」から得られる信号を利用して無人状態でも走行できるロボットトラクターがすでに発売されています。*3
農業では就農者の高齢化や担い手不足といった懸念がある中、将来的には必須の技術になる可能性もあります。
また、海外では衛星コンステレーションを利用し、衛星が撮影した世界各地の石油タンクの表面にできる影を分析して石油備蓄量を推計するサービスがあります。各国の政府やエネルギー関連企業、先物取引を行う金融機関などで利用されています。*4
宇宙開発に求められる持続可能性
宇宙開発というと、日常生活とはどこかかけ離れた存在のように感じる人も少なくありません。しかしアイデア次第で、地上の日常生活に様々な利便性をもたらすことができるようになりつつあるのです。
一方で近年「スペースデブリ」の存在が懸念されています。「宇宙ごみ」と呼ばれるものです。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の研究チームは、今後10年間で、宇宙ごみが地上に落下して死傷者を出す確率が10%に上るとの分析結果を発表しています。*5
研究チームの論文によると、1992年から30年間で1500以上のロケットの残骸が軌道から外れ、うち約7割が制御不能になっているとみられます。
それに伴って、今度は宇宙ごみを回収する技術の開発も進んでいます。
宇宙利用の恩恵にあずかりながら、同時にその環境もまもる。
宇宙にかかわるビジネスはもはや生活に身近なものとして、今後ますます拡大していきそうです。
*1
日経クロステック「地球を覆う人工衛星網がウクライナからの映像を届ける」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02040/00002/
*2
USAID「USAID SAFEGUARDS INTERNET ACCESS IN UKRAINE THROUGH PUBLIC-PRIVATE-PARTNERSHIP WITH SPACEX」
https://www.usaid.gov/news-information/press-releases/apr-5-2022-usaid-safeguards-internet-access-ukraine-through-public-private
*3、4
日本政策金融公庫「コンステレーションビジネスで広がる中小企業の宇宙産業への参入機会」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_21_08_26b.pdf p2
*5
日本経済新聞「宇宙ごみで死傷確率10%、カナダの大学推定 リスク累積」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE200FF0Q2A820C2000000/?n_cid=SNSTW001

フリーライター
清水 沙矢香 Sayaka Shimizu
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。