重い原子核は「アーモンド型」 約70年の認識を覆す成果
~教科書を書き換える研究結果~
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「原子核」は、身近な物質の構成部品として、ある意味根源的な存在です。この原子核は、過去70年ほど「重い原子核の一部は球体ではなく変形しており、その形はラグビーボールに近い」と認識されていました。
しかし今回、理化学研究所仁科加速器科学研究センターの大塚孝治氏などによって行われた研究によって、実際にはラグビーボール型よりもさらに対称性の低い、アーモンド型と言えるような形をしていることが明らかにされました。
重い原子核に関する見方を変えるという意味で、これは文字通り「教科書を書き換える研究結果」であると言えます。

重い原子核の形は「球形」ではない
私たちの身体を含む身近な物質は、原子の集合体であることが分かっています。
この原子の中心にあるのが「原子核」です。原子核はいくつかの陽子と中性子が結合した、直径数fm (1fm=1000兆分の1m) の高密度の塊であり、もし原子核だけを取り出せたとすれば、スプーン1杯で数十億トンにもなります。
原子の構造の図を教科書などで見てみると、原子核は球体として描かれています。
実際、軽い原子核については、球体であることは間違いありません。
しかし重い原子核になると、厳密に言えば球体ではないことが1950年代に明らかにされています。ここで言う重い原子核とは、質量数 (陽子と中性子の合計値) が140以上のものを指します。
これは、レアメタルの一部として知られている希土類元素 (レアアース) が該当します。もちろん、希土類元素より重い元素、例えば金・水銀・鉛・ビスマス・ウランも重い原子核に当たります。
ではそもそも、なぜ原子核の形を気にするのでしょうか?
それは、原子核の形が原子核の性質や安定性に関わっているからです。

1911年に原子核が発見されてからしばらくの間は、全ての原子核が球形であると考えられていました。
特に影響を与えたのは、原子核を液体の雫として捉える「液滴模型」です。
大雑把に言えば、「水が表面張力により丸くなるように、原子核も表面張力によって球形を保つだろう。不安定な原子核は、何かの理由で球形では無くなっているのが不安定さの理由だろう。」と考えられていたわけです。
しかし1930年代末より、原子核の形状は球形以外もありうるという理論的解釈が提唱されるようになりました。
この議論に決着をつけたのはレオ・ジェームス・レインウォーター、オーゲ・ニールス・ボーア、ベン・ロイ・モッテルソンによる研究です。この3名は、重い原子核が、従来の考え通り球形である場合もあるものの、球形ではない形であっても安定していることを実験的に明らかにしました。この成果により、レインウォーターらには1975年にノーベル物理学賞が贈られました。
では、球形ではない形とは、具体的な形はどうなっているのでしょうか?
この疑問は、特にボーアが研究を進め、重い原子核はプロレート変形をしている、分かりやすく言えばラグビーボール型であるという考えを示しました。
球体の場合、縦・横・高さの3つの軸のどこから測っても同じ長さですが、ラグビーボールの場合、1つの軸で測った長さが、他の2つの軸で測った長さと比べて長くなります。あるいは、球形の場合はどこから見ても円にしか見えない一方、ラグビーボールは最も長い軸に目線を合わせた時だけ円に見え、他の方向から見ると楕円に見えると言い換えることもできます。
重い原子核はラグビーボール型であるという考えは、その後のほぼ70年間、基盤的な考えとなっていました。
原子核の形を理論から予測
しかし、ラグビーボール型という説に異論がなかったわけではありません。
例えば1950年代にアレクサンドル・ダヴィドフは、縦・横・高さの3つの軸全ての長さが異なる形の原子核 (ダヴィドフ模型) を予測しています。この形は、ラグビーボール型よりさらに対称性が低くなり、アーモンド型をしていると言えます。
しかし、アーモンド型を予測する模型は、理論としては単純すぎて実態を反映していないとして、支持を集めることができませんでした。
1990年代には重い原子核がアーモンド型であることを示唆する実験データも得られたものの、裏付けとなる理論が存在しなかったこともあり、こちらもあまり支持されていませんでした。
今回、理化学研究所仁科加速器科学研究センターの大塚孝治氏などによって行われた研究は、このような茨の道であったアーモンド型の原子核の実在を証明するものです。
大塚氏らが行った研究内容は、主に2つに分けることができます。
1つ目は、原子核の構造について、スーパーコンピューター『富岳』によるシミュレーションを実行することです。2つ目は、原子核の性質を理論的に予測した際、ラグビーボール型よりもアーモンド型の方が実際の実験結果に近いことを示すことです。
1つ目: 原子核の形を直接計算
原子核の形状を予想するには、通常は理論を元にモデルを構築し、安定性について議論します。
しかし、原子核の性質が完全に理解されているとは言えないため、モデルが構築できない場合や、構築できたとしてもそれが正しいかどうか分からない場合もあります。
このため、難解な理論を元に時間をかけて理論モデルを構築するよりも、理解されている性質を元に、安定性を直接的に計算機で計算させるというストレートな方法の方が、結果的に正しい答えに行きつく場合もあります。
しかし、重い原子核は100個以上の陽子や中性子が力によって結びついた塊であり、非常に混沌としています。全ての陽子や中性子がどのように力を与えあっているかを見なければならないため、必要な計算量は膨大になります。


そこで大塚氏らは、日本で最も性能の高いスーパーコンピューター『富岳』を使用し、重い原子核の形を直接シミュレーションしました。
対象となったのは、過去の研究によってアーモンド型であることが分かっている原子核の一部です。
一例として、ボーアが議論した「エルビウム166」という原子核の形を計算してみると、縦・横・高さの3つの軸の長さの比率は0.88・0.93・1.19であることがわかりました。これはエルビウム166原子核がアーモンド型をしていることを直接的に示しています。
今回の研究では上記以外の原子核、合計13種類について計算を行ったところ、やはりどれもアーモンド型をしていることが直接的に計算されました。この中にはエルビウム166のように、安定しているために天然に存在する原子核も含まれています。
2つ目: 原子核の形を理論的に理解する
多くの物理学者は、あらゆる事物の大前提として、自然はなるべく対称であろうとする性質を持っているだろうと考えています。
かつて全ての原子核に共通の性質であると推定されていた「原子核はきれいな球体である」という考えも、球体はどの方向から見ても同じ形である対称性を持つことが理由の1つです。
一方で、原子核がアーモンド型やラグビーボール型になれば、見る方向によって形が変わってしまうため、対称性が崩れてしまいます。この対称性の崩れを回復する手段として、原子核が回転することで崩れた対称性を回復させるという「回転対称性の量子論的回復」という性質が現れます。
非常に大雑把なたとえであることを前提に説明すると、回転対称性の量子論的回復とは、扇風機の羽と似ています。
扇風機が停止している時には何枚かのカーブした羽を見ることができ、対称性は低い状態です。しかし扇風機を運転させると、きれいな形をした1枚の円盤であるかのように見えるでしょう。回転させると対称性が回復するとは、おおよそこのようなイメージです。
対称であるという状況が発生するかどうかは、原子核の性質に直結します。
例えば、原子核は「核力」という非常に強い力によって高密度の塊の状態を保っています (ややこしいですが、強い力とは文字通り強大な力であると同時に、核力の源である「強い力 (強い相互作用)」の正式名称でもあります) 。核力は、原子核の安定性を決定する重要な要素です。
詳細は割愛しますが、核力には「テンソル力」という成分が含まれています。
今回大塚氏らは、原子核の形が変形している状況でのテンソル力の性質について理論的な予測を行い、先述した原子核の回転による対称性の回復と併せて原子核の安定性を調べました。
その結果、原子核の形がラグビーボール型であるよりも、アーモンド型である方が原子核が安定している (結合エネルギーが多くなる) ことを理論的に示しました。
さらに、原子核の回転について決定する「電磁励起」と呼ばれる性質についても理論予測を行ったところ、原子核の形がアーモンド型である方が、ラグビーボール型であるよりも、実験的に確認された値によく一致することが分かりました。
これらの結果は、重い原子核は一般的にアーモンド型をしている可能性が高いことを理論的に裏付けています。
量子力学のみで原子核の特定の性質を描くことに成功

今回の研究結果の発展形として、重い原子核の性質に関する新たな理論的描写も現れました。
原子核は特定の大きさのエネルギーを持つ性質 (エネルギー準位) がありますが、このエネルギーの大きさは原子核の回転によって決まることが分かっています。
従来はこの性質について、原子核の回転の運動エネルギーが関与しているという考えで議論を進めていましたが、これは量子力学と古典力学の組み合わせで成り立っています。
原子核ほどのミクロの世界になると、古典力学的な描写は実際の正確な状態を反映しているわけではないため、この点には問題がありました。
今回の研究では、このエネルギーの大きさの変化を、原子核の運動エネルギーではなく、原子核内部で陽子や中性子が結びつくために使うエネルギー (結合エネルギー) の変化に求めることに成功しました。
この結合エネルギーの決定には、原子核の形が強く絡んでいます。
今回の研究結果は、原子核の性質が原子核の形によって決まることを示すだけでなく、これまで説明に古典力学が必要だった部分から古典力学を排除し、純粋に量子力学だけで説明できるようになることを示した点でも非常に重要です。
本当の意味で教科書を書き換える研究結果
今回の研究結果は、重い原子核の形について、これまで70年間信じられてきた内容を覆しており、文字通り「教科書を書き換える研究結果」となります。
そしてこの研究は、ある意味で物質の根源たる原子核の、非常に根源的な性質にかかっているため、影響する範囲は非常に広いです。
このため研究の影響については、理化学研究所のプレスリリースには書かれていない筆者の見解について述べます。
まず、重い原子核の安定性の議論について、これまでとは異なる前提で話を進める必要が出てくるかもしれません。
重い原子核の中でも、寿命が長く安定しているものから、寿命が短く不安定なものまで、その安定性は千差万別です。安定性の理由はある程度の理論的説明があるものの、まだ未解明な謎がたくさんあります。今回の研究により、埋められない謎について何か新しいことが分かるかもしれません。

この重い原子核の安定性に関する議論は、そのまま未知の原子核の探索にも話を延長することができます。
元素は現時点で118番元素まで合成されており、このうち113番元素の「ニホニウム」は日本で発見された元素として知られています。
一方で119番目以降の元素の合成も試みられていますが、合成を成功させるためには、実物を手にしたことがない原子核の安定性を予測し、少しでも合成しやすい原子核を狙う必要があります。
今回の研究は、根本的なところで合成を目指す目標選定に絡んでくるでしょう。
また、こうした不安定な原子核の合成は、宇宙では自然に起きています。
寿命が尽きかけている恒星内部で起こっているものもあれば、超新星爆発のような激しい現場までその形は様々ですが、どちらの議論でも原子核の安定性が重要になります。原子核がたとえ1兆分の1秒しか存在できなかったとしても、全く存在しないのとは雲泥の差があるためです。
重い原子核の安定性の議論は、こうした瞬きよりも短い間に消滅してしまう原子核にも適用されます。

そして、この研究では陽子と中性子の数が共に偶数な原子核を対象としていますが、この知見はどちらかの数が奇数な原子核にも広げられる可能性があります。
この時注目される原子核の1つに「トリウム229」があります。
現在、最も精密な時計として原子の性質を利用した「原子時計」や、その派生形である「光格子時計」が登場していますが、それに匹敵するか、もしくは凌駕する性質を持ち開発研究が進んでいるものに「原子核時計」があります。
トリウム229は原子核時計に使える事実上唯一の原子核ですが、時計としての正確性を挙げるには原子核の詳細な性質を知る必要があります。
原子核時計が次世代の時計の標準となるには、使用する原子核の形も考慮する必要があるでしょう。
最後に、これまでさんざん "重い原子核" がアーモンド型であるという話をしましたが、アーモンド型は重い原子核の特権ではありません。
実際には、質量数が100程度の、軽いとも重いとも言えない中程度の重さの原子核でも、一部がアーモンド型をしていることが分かっています。この研究結果は、中間の重さの原子核の安定性の議論にも関わってくる可能性があります。
今回は原子核の回転に焦点を当てた研究でしたが、大塚氏らは今後、原子核の振動に関する点にも焦点を当てた研究を行う予定です。
【参考文献】
Otsuka, et al. "Prevailing triaxial shapes in atomic nuclei and a quantum theory of rotation of composite objects". The European Physical Journal A, 2025; 61, 126. DOI: 10.1140/epja/s10050-025-01553-1
理化学研究所, 東京大学 & 筑波大学. (Jun 2, 2025) "原子核の形状は「アーモンド」-定説を覆し、70年経て浮かび上がった真の姿-". 理化学研究所.

サイエンスライター
彩恵りり Rele Scie
「科学ライター兼Vtuber」として、最新の自然科学系の研究成果やその他の話題の解説記事を様々な場所で寄稿しています。得意分野は天文学ですが、自然科学ならばほぼノンジャンルで活動中です。B-angleでは、世界中の研究成果や興味深い内容の最新科学ニュースを解説します。
