「メタバース」はなぜ注目される?

~メタバースとWeb3.0との関係とは~

目次

    「メタバース」がどのような技術か、なんとなく知っている、という人は多いことでしょう。

    仮想空間に自分のアバターを持ち、仮想空間に作られた都市で活動できる。ゲームの延長のような世界といえるかもしれません。

    ただ、ゲームの世界と大きく異なる部分もあり、将来性が期待されているのがメタバースです。特に、近年バズワードになってきた「Web3(Web3.0)」の世界との融合で、新しい経済圏や経済活動が生まれることが期待されています。

    そこで今回は、「メタバース」の最新事情と「Web3(Web3.0)」との関係について、見ていくことにしましょう。

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    メタバースの概要と特徴

    メタバースとは、仮想空間上に自分のアバターを誕生させて街を歩いたり、ショッピングをしたり、友人と会ってコミュニケーションしたりという、現実世界に似た行動を取れる世界を再現する技術です。

    もちろん、実在する街を模したものを作ることもできます(図1)。

    メタバース上のイメージ図
    図1:メタバース上のイメージ図
    (出所:「メタバースとは?科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由」産業技術総合研究所)https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220406.html

    上の図では、左側が秋葉原、右側は渋谷をイメージして作成された仮想空間上の街です。

    とはいえ、例えば、SNS上でコミュニケーションを取る、ゲームという仮想空間内で友人を作る、インターネット上の店舗で物やサービスを購入するなど、バーチャルの世界でコミュニケーションをとったり、買い物をしたりということは、すでに皆さんが経験していることだと思います。

     
    ではメタバースは従来のインターネット環境とどのように違うのでしょうか。

    産業総合研究所は、以下の点で、これまでのインターネット環境ではできなかった、メタバースでできることを述べています。

    ・現実世界によく似た形を持つデジタル空間の中に、時間の概念がある

    ・ユーザーが「これは自分の身体だ」と認識できる程度に、操作がタイムリーにアバターへ反映される

    ・「会社員のわたし」「親としてのわたし」「趣味の仲間と会う時のわたし」など、その時々にフィットした姿かたちを選択できる

     

    <引用:「「メタバースとは?科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由」産業技術総合研究所>
    https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220406.html

    確かに、このように考えると、メタバースとは何なのかのイメージが少しくっきりしてくることでしょう。

    海外で進んでいる実例としては、次のようなものがあります。

    仮想空間上で土地を売買?

    例えば、Decentralandというメタバースプラットフォームがあります。

    ここでは、個人が自由に街や店といった施設を作ることができます。

    そしてその中に、どのような空間があるのかを見たユーザーが、趣味や嗜好に合わせてアバターで参加できるという仕組みになっています(図2)。

    Decentralandにユーザーが作った施設の紹介画面例
    図2:Decentralandにユーザーが作った施設の紹介画面例
    (出所:Decenrtaland)https://places.decentraland.org/place/?position=-103.-97

    そして驚くべきことに、Decertalandでは、仮想空間内でユーザーが作成した洋服やアイテムの売買ができるだけでなく、仮想空間上の「土地の売買」までもが可能になっているのです(図3)。

    Decentland上での土地の取引状況
    図3:Decentland上での土地の取引状況
    (出所:Decentraland,2023年1月閲覧)https://market.decentraland.org/#recently-sold-parcel

    仮想空間上とはいえ、好きな場所に住んだり施設を建てたりできるというわけです。また、この世界での取引に使われているのは「MANA」と呼ばれる仮想通貨です。

    現実世界と切り離された社会・あるいは経済圏が、まさにネット上に存在しているのです。



    メタバースと「Web3(Web3.0)」

    さて、このメタバースの世界が、どのように「Web3(Web3.0)」と紐付けられるのでしょうか。まず、「Web3.0(Web3.0)」がどのようなものかの概要をご紹介しましょう。

    これまでのWeb1.0、Web2.0の世界

    「Web3(Web3.0)」というからには、過去にはWeb1.0、Web2.0の世界が存在していたということです。

    今では信じられないかもしれませんが、Web1.0の世界では、一部の企業などが作ったサイトを「見ること」「読むこと」しかできず、コミュニケーションは電子メールが限界でした。Googleのような検索エンジンも未発達でした。

    また、ネット回線も、プロバイダの番号に電話をかけ、電話回線でネットに繋ぐ「ダイヤルアップ」という時代です。筆者の学生時代はこれでした。今のようにWi-Fiで24時間遠慮なく接続しっぱなしができるのではなく、その都度電話代がかかるため、限られた時間しか接続できません。

    そして今とは違って誰にでも簡単にホームページが作れるわけでもなかったため、サイトの作成は一部の企業や知識のある人のものでしかありませんでした。このときのインターネットの特徴は下のようなものです(図4)。

    Web1.0時代のインターネットの概念
    図4:Web1.0時代のインターネットの概念
    (出所:「Web3.0の登場と期待される今後のインターネット世界」中小機構)https://ittools.smrj.go.jp/info/feature/nl39t60000000yr9.php

    情報はあくまで一方通行です。

    そして、次に訪れたWeb2.0の世界で、ようやく「双方向」のコミュニケーションが個人でも簡単にできるようになりました。スマートフォンやSNSが台頭した時代です。

    これで、情報の発信や共有は一部の企業のものだけでなくなり、今のTwitterなどがそうであるように、誰にでも簡単にできるようになったともいえます(図5)。

    Web2.0時代のインターネットの概念
    図5:Web2.0時代のインターネットの概念
    (出所:「Web3.0の登場と期待される今後のインターネット世界」中小機構)https://ittools.smrj.go.jp/info/feature/nl39t60000000yr9.php

    いまのメインストリームがまさにWeb2.0の世界ですが、課題も浮かび上がってきました。

    TwitterやInstagramなどのSNSは、GAFAMといった限られた巨大テック企業がそのプラットフォームを無料で提供していました。その分、個人情報を収集して広告表示に反映するというビジネスモデルが生まれました。

    この状態=一部のテック企業が個人情報を多く集める寡占状態について、近年意識が高まっている個人情報保護の面から疑問を呈する声が上がっているのです。

    Web3.0は何を解決するのか

    さて、Web3.0は、「GAFAMなどの寡占なしに、個人がプラットフォームを作る世界」を目指しています。

    Web3.0の世界は、一般の人のお金のやりとりに例えるとわかりやすくなります(図6)。

    Web3.0を金融にたとえた場合の概念
    図6:Web3.0を金融にたとえた場合の概念
    (出所:「Web3.0の登場と期待される今後のインターネット世界」中小機構)https://ittools.smrj.go.jp/info/feature/nl39t60000000yr9.php

    中央銀行や金融機関は、ネットで例えるならばGAFAMのような存在です。そして、Web3.0はこうした巨大テック企業が個人情報を寡占する状況から脱却し、個人が独自の世界を作ってそこで経済活動を行おうという世界です(図7)。

    Web1.0〜Web3の変遷
    図7:Web1.0〜Web3の変遷
    (出所:「『Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会』事務局資料」総務省)https://www.soumu.go.jp/main_content/000827944.pdf p5

    メタバースはまさに、先ほど紹介したように仮想空間で個人間のモノや土地の売買ができる場所です。

    また、最近「NFT (Non-Fungible Token|代替不可能なトークン)」という言葉もSNS上で話題になっていることもご存知のとおりです。

    コピペが簡単な時代に、著名人や芸術家の作品に対して追跡可能な独占所有権を与えられ占有できるというものです。勝手な二次利用を禁止することができるとも言えます。

    例えばメタバース空間に芸術家が美術館を設置し、そこで「本物の」絵画などをNFTの形で販売する事もできるということです。

    こうした経済の形も、メタバースとWeb3.0の融合によって可能になるのです。



    最新技術に向き合うイマジネーションを鍛えよう

    ここまでメタバースとWeb3.0の世界について紹介してきましたが、実用的な商用利用は、まだごくわずかです。どう利用するかは個人や企業次第というわけです。


    ただ、筆者の知人であるソニーの元技術者は、ひとつのアイデアを披露してくれました。それは身体などに障害を持つ人が、メタバースの世界では現実では難しいような行動を取れるようになるというものです。

    現実世界ではさまざまな制約があったとしても、メタバース上では好きな街に行き、気になる店舗を気軽に訪れ、欲しいものを購入できるようになる、といった具合です。

    このように、メタバースはアイデア次第でビジネスになったり、人を助けることができるツールになり得るのです。

    さて、使い方は人次第です。

    このような技術があることを知り、自分としてはどんな使い方を想像するか。

    バーチャルの世界に限らず、先端技術は「どのように使うか」を想像する柔軟性があってはじめてビジネスに応用できるものです。

    新しい技術をどう使うのか、その可能性は無限大です。柔軟な発想を持って最新技術に価値を与え、より良い社会づくりに貢献していただきたいと思います。「今の若い人」と括ってしまうのは筆者にも抵抗はありますが、しかし新しいツールに容易になじめるのは若い人です。それならではの現代流のアイデアを探ってみるのはいかがでしょうか? 

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    フリーライター

    清水 沙矢香 Sayaka Shimizu

    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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