地球の近くでも発見! ブラックホールとはそもそも何なのか?

太陽の33倍の質量をもつ「Gaia BH3」

目次

    「ブラックホール」という言葉を聞いた時、皆さんはどんなイメージを持つでしょうか。

    闇?虚無の世界?近づくと吸い込まれる?

    色々とあるでしょうが、実際、ブラックホールというのは「無」ではなく、むしろ巨大なものが「ある」場所なのです。

    そして今年、銀河系最大のブラックホールが発見され、それがなんと地球の近くにあったという論文が発表されました。

    一体どんなものなの?

    今回は、この論文の概要と、そもそもブラックホールとは何なのかを解説していきたいと思います。

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    銀河系最大の恒星ブラックホールが、地球の近くで見つかる

    ヨーロッパ南天天文台(=以下ESO)は2024年4月に、銀河系で最も大きな恒星ブラックホールを発見したと公表しました。*1

    あらゆる恒星には寿命があります。そして「恒星ブラックホール」は大きな恒星が崩壊することで形成されるものです。*2

    これまでに銀河系で特定された恒星ブラックホールの質量は平均して太陽の約10倍でしたが、今回見つかった「Gaia BH3(もしくはBH3)」は太陽の33倍の質量を持つという、例外的な大きさなのだそうです。

    これまでに知られている大きなブラックホールは太陽の21倍の質量にしか達しないと聞くと、今回見つかったブラックホールの規模が分かることでしょう。

    これまでに銀河系で見つかった3つの恒星ブラックホールの質量比較イメージ
    これまでに銀河系で見つかった3つの恒星ブラックホールの質量比較イメージ。ガイア BH1、白鳥座X-1、BH3の質量はそれぞれ太陽の 10倍、21倍、33倍にのぼる。
    (出所:ESO/M. Kornmesser)
    https://www.eso.org/public/images/eso2408b/


    しかも今回見つかったブラックホールは既知のブラックホールの中で地球に2番目に近く、地球からわずか約2,000光年の「わし座」にあるといいます。


    そもそも、ブラックホールって何?

    さて、そもそも「ブラックホール」とは何でしょうか。

    その名前から「ホール」=穴と想像されがちですし、実際穴のような構造をしています。

    しかし、その穴に落ちると別次元にでも行ってしまうのだろうか?

    それはすこし違うようです。

    ブラックホールの先にあるのは、実は「虚無の空間」ではなく「壊れた星」です。

    これはいったいどういうことでしょうか。

    万有引力の法則

    りんごが木から落ちてくる様子を見て、世界の見え方を覆す研究の礎としたアイザック・ニュートン。

    彼が発見したのは、「すべてのものが互いに引き合う『引力』を持っている」ということです。しかもその引力は、物体の質量に比例し、距離の2乗に反比例します。*3

    わたしたちが地上にとどまっているのは、わたしたちや周辺の物体が地球の質量に比べれば遥かに小さく、地球に引っ張られている状態だからです。これが「重力」です。

    なお、太陽系の惑星の質量は下のようになっています。

    太陽系の惑星の質量比較
    太陽系の惑星の質量比較
    (出所:北海道大学「月の物理的特徴 - 大きさ・角運動量 -」)
    https://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~mosir/work/2002/kamokata/lecture/moon/moon_html/moon_study/moon_birth/physical-property.html


    万有引力の法則を考えれば、地球よりも質量がはるかに大きい木星でのわたしたちの生活は、かなり厳しそうです。重力が強すぎて、地球のように自由に歩き回ることはできないでしょう。

    一方で距離の2乗に反比例する、というのは、つまり地球から離れれば地球の重力の影響が小さくなるということです。ある程度頑張って地球の重力圏を脱出すれば、近くにある他の巨大な天体から引っ張られない限り、「無重力」の世界に達することができる、というわけです。


    ブラックホールの正体は「とことん重い星の残骸」

    では、とてつもなく重い星が存在したら?太陽とは比べものにならない大きな引力を持つ星があったとしたら?

    それこそがブラックホールの正体です。

    太陽の約8倍以上の質量をもつ星は、進化の最後に超新星爆発を起こします。そのメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、爆発によって残骸が残ります。この残骸は質量が非常に大きく、条件によってはブラックホールを生成します。*2

    ブラックホールの正体はこうした残骸です。ただ、その質量があまりにも大きいため、万有引力の法則によって多くのものを引きつけてしまうのです。光さえもブラックホールからは脱出できません。

    ブラックホールの概念図
    ブラックホールの概念
    (出所:国立科学博物館「Ⅵ. ブラックホールって何ですか?」)
    https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/theory/theory06.html


    ちなみに、地球を含む天体には「脱出速度」というものがあります。重力を振り切ってその天体から離れることができる速度です。

    地球の場合は秒速11.2キロメートルで、「第二宇宙速度」と呼ばれます。*4

    なお、人工衛星は秒速約7.9キロメートルで、「第一宇宙速度」と呼ばれるスピードで打ち上げられます。というのは、衛星は地球の軌道を回り続けてくれなければ困るからです。地球の重力圏から外れられては、地球から離れ過ぎて地球の観測ができなくなってしまいます。よって、地球の重力が及ぶ「すれすれの場所」を狙った速度で投入しているのです。

    こう聞くだけでも、宇宙開発の技術の高さに想いを馳せてしまいます。


    ブラックホールに「音」が存在する?

    とてつもない質量であらゆるものを引きつける存在、それがブラックホールです。「無」ではなく、恒星の爆発によって生まれた「もの」がその奥には存在するのです。

    また、ブラックホールには時空の歪みを波として伝える「重力波」があることを、様々な宇宙機関が証明しています。

    最初に発見されたのは2016年、米ワシントン州とルイジアナ州にある2基の観測装置によるものでした。合体しつつある2つのブラックホールで「さざ波」のような重力波をレーザーを用いて発見したと言います。*5

    ブラックホールの「音」を捉えた

    そしてNASAが「ブラックホール音声リミックス」として公開した音声は話題になりました。ペルセウス座銀河の中心にあるブラックホールで、実際にはブラックホールから放出された圧力波が銀河団の高温ガスに波紋を引き起こし、それを音に変換したものです。

    そのままだと人間の耳に聞こえない音域のため、元の周波数より144京倍〜288京倍ほど高いものに加工されていますが、不思議な空間に誘われる音です。*6

    同時に、ブラックホールもまた「生き物」なのだなあと感じます。


    宇宙もまた生きている

    「重力波」とは実は、アインシュタインが約100年前に考案した仮説です。

    今のような計測器がない中で、アインシュタインは膨大な数式の先にどんな世界を見ていたのでしょう。

    また、小さな惑星である地球の一住民に過ぎないわたしたちは、宇宙とは不変なもののように感じてしまいますが、星たちや宇宙空間もまた生きている存在で、日々その姿形は変わり続けています。

    そう考えると、夜空への興味は尽きないものになることでしょう。


    【参考文献】

    *1
    ESO「Most massive stellar black hole in our galaxy found」
    https://www.eso.org/public/news/eso2408/

    *2
    計算基礎科学連携拠点「宇宙の成り立ちの解明につながるブラックホールの謎に迫る」
    https://www.jicfus.jp/jp/promotion/pr/mj/2015-7/

    *3
    国立天文台「万有引力の法則」
    https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CBFCCDADB0FACECFA4CECBA1C2A7.html

    *4
    公益社団法人日本天文学会「宇宙速度」
    https://astro-dic.jp/cosmic-velocity/

    *5
    natureダイジェスト「重力波を初めて直接検出」
    https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v13/n4/%E9%87%8D%E5%8A%9B%E6%B3%A2%E3%82%92%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E7%9B%B4%E6%8E%A5%E6%A4%9C%E5%87%BA/73432

    *6
    NASA「NASA のブラックホール音声リミックス」
    https://www.nasa.gov/universe/new-nasa-black-hole-sonifications-with-a-remix/

    画像

    フリーライター

    清水 沙矢香 Sayaka Shimizu

    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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